泉鏡花の「山吹」 昨年からの感染症予防で、花粉症でない人もみんなマスクをするようになりましたが、マスクというと、どうしてもある小説の話を思い出してしまいます。 曖昧にしか憶えていませんが、その話の内容は、旅の人形使いが、美しい姫の人形を扱う時、自分の汚い息がかからないようにマスクをしてどうのこうの、というものでした。 この話は誰が書いたものかすっかり忘れてしまい、川端康成だったかな、だとしたら探すついでに他の作品も読もうかな、などと思っていましたが、何気なく部屋の本棚を見ていたら、“泉鏡花”の名前が目に止まりました。ひょっとしてと思い、ネットで探してみると、案外簡単に目当てのものにたどり着きました。 探していた話のタイトルは「山吹」。作者は泉鏡花で、会話形式の戯曲です。 泉鏡花の「高野聖」は教科書に載っていたような気もするので、やはりこれが一番有名でしょうか。作品は青空文庫で読めます。 (青空文庫の作者の紹介を読んでいたら、川端康成や三島由紀夫が影響されたとあるので、あながち川端康成は遠くなかったのかもしれません) ・「 山吹 」(青空文庫) 泉鏡花の世界 それで「山吹」を久しぶりに読み返してみました。 人形使いに関しては、マスクとは少し違ったようですが、それ以外はだいたい想像していたとおりのものでした。 ただ、すっかり忘れていた、その他の登場人物と狂気に包まれた幽玄な世界、どちらかというと、こっちの方が話の中心ではないかと思いますが、ともかく、この世界観はやはり泉鏡花ならではのものだろうと、その文章に触れてあらためて思うのでした。 ……とまあ、マスクの世の中を見てそんなことを思う人なんて、誰かほかにいるのでしょうか。
花、空、山、旅、スナップ写真を中心に、思ったことなどを書き綴っています。